さくらももこさん・サッカー・清水・羽衣の松

「ちびまる子ちゃん」の舞台は、旧清水市・入江町である。

このマンガは、旧き良き時代の清水に住む人の日常生活を描いている。

 

SNSもない、スマホも携帯電話もない時代の「普通の人」の喜・怒・哀・楽が

小学3年生のまる子ちゃんの眼を通して描かれている。

 

ちびまる子ちゃんは、どこにもいる「フツウ―の子」である。

が、この当たり前のこの風景も、現在の入江町界隈にない。

 

人も、生活も、街の在り方も、すべて「時代の子」である。

 

この機会に、過疎化に悩む地方都市と、各種イベントによる地域活性化の有効性と限界を考えてみたい。

 

サッカーの戦略・戦術・戦法

私は、この潮風が吹く港町に20年住んでいた。

懐かしさと愛しさをもって、この風景を丸ごと覚えている。

さくらももこさんの「ちびまる子ちゃん」に登場する花輪クンのキャラクターモデルは誰だ!と、笑った思い出が懐かしい。

 

この作品の中の「サッカー少年・ケンタ」のモデルは長谷川健太監督である。

J1の清水エスパルスは、「清水FC」を母体として発足した。ケンタ君世代の息子たちは、当然サッカー大好き人間である。現在の日本サッカーの指導者群で、この「サッカーの街」から出発した人が多い。いま、マスコミに出ている人をだけあげてみても、清水東(武田)・清水商業(名波)・東海一(澤登)・静岡学園(三浦)・清水工業(市川)君ら多士済々である。

「街の勢いがサッカーの勢い」と繋がっていた。選手も指導者も、みんな「夢」をもっていた。競いあうことが楽しかった。

私は女房と、時々、日本平のサッカー場に、清水エスパルスの応援に行く。

長男が手配してくれる。彼の友人は「清水FC」の小さなスターたちだった。

 

サッカーの面白さの1つは「戦略」「戦術」「戦法」の多様さにある。

この3つを同じように考える人がいるが間違いである。

 

「戦略」とは、勝つための総合的・長期的な計略のことである。

例えば、W杯に勝つために4年間かけて、どんな選手を育て・選び、強靭なチームをつくるかが問われる。

今回の基本はハリルホジッチ前監督が作った。

 

「戦術」とは、戦いに勝つための具体的な方法である。

今回のポーランド戦で西野朗監督がとったものが典型的である。

西野さんがAERAに述べているが、賛・否両論が出る戦術だった。これが川渕―田島氏が言う「日本式」なのかどうかわからないが、ともあれ戦略・戦術はチームの背景に伝統・文化がある。

 

「戦法」はピッチ上で取る戦い方である。

私の母校藤枝東高校の後輩、長谷部主将が、西野監督の指示に従って取った行動を指す。

10分間、ボール回しに徹するのも戦法である。「時間を使う」という戦法は指揮者が決める。

 

日本と同様に、W杯の直前に強豪スペインが監督を交代させた。理由は不明だが、戦略と戦術の断絶である。

これの影響があったかどうかわからないが、ともあれスペインは予選で敗れた。

戦略・戦術・戦法が一貫したチームが強い。

 

昔、私が主催したイベントで、村松友視さんが、「サッカーは貧しい地域が強い。なぜ清水が強いのか。清水は『明るいサッカー』だ。これが特徴だ」とコメントした。村松さんは清水に関係の深い作家だから、サッカーに詳しい。このイベントで詩人の大岡信さんは「招きの文化」という表現をした。サッカーを通して、沢山の人材・選手が清水に集まった。

しかし「貧しくなった清水」のチームは弱くなった。なぜか?

 

羽衣伝説と清水

昔「羽衣の松の下で薪能をやりたい」という相談が持ち込まれたことがある。

遠くに富士山が見える三保の海岸があまりにも美しいので、天女が下りてきた。

松の枝に羽衣をかけてゆったりしていたら、漁師が羽衣を奪ってしまった。

天に戻ることができなくなった天女は、漁師に「天女の舞」を舞うという物語である。

全国に羽衣伝説があるが、三保の伝説が一番きれいである。

 

この羽衣伝説をもとにして、世阿弥が謡曲「羽衣」を書き、日本を代表する「能」にした。

これを、屋外の「本物の松の下で上演したい」というのである。

紆余曲折を経て、砂地の上に舞台を作って上演し、30年以上続いている。

秋の三保の風物詩になっている。

 

幽玄の舞台である。

この薪能の復活に情熱を注いだ「羽衣ホテル」の遠藤まゆみさんをモデルにして、NHKが連続テレビ小説を作成したことがある。男の主演は清水市出身の俳優・柴田恭平さんだった。ドラマはいまも生きている。

 

清水(静岡市清水区)は文字通り「清らかな水の世界」である。

これを伝える『臥龍梅』という酒がある。

三和酒造という地元の酒造り屋の純米大吟醸である。実に美味い。

若い高校生には早いが、「日本酒の伝統」を知ることは、日本文化を維持し発展させることとして重要である。

しっかり覚えておきたい。

 

最近急激に、地方都市がさびれている。

清水も同じである。

「さくらももこさん」の入江町も寂しい。

カモメが巴川に飛んで訃報を悲しんでいる。

「街の活性化」が叫ばれても、なかなか活気が戻らない。

だから地方都市の活性化に役立つことを期待してサッカーを支援している自治体が多い。

サッカー支援者として、そんな側面も理解しておきたい。

 

これから、地方都市の過疎化は、ますます深刻になるだろう。

地方に働く場所がなければ若者は定着しない。