英語4技能:民間検定試験の実施は中止!?

「私たちの大学入試の英語はどうなるの?」

「英語は4技能をテストされるから、しっかり準備しなさい」

「配点が変更されるからListening、Readingに力を入れなさい」

と言われたけど、

「これからどうなってしまうのか」

「どんな勉強をしたら良いの?」

という声が沢山寄せられています。

困ったことです。

 

引用元:中学図巻

大人の都合で、受験生を勝手に振り回しているのですからね。

 

そこで、今回は「英語の検定試験の現状と課題」について整理してみます。

 

(1)されど、英語重視は変えられない

 

11月1日に文科大臣が「英語の民間試験導入を延期する」と発表しました。

 

私は11月5日に開かれた衆議院:文教委員会をテレビで見ていたのですが、どの党も「英語4技能は重要だから、英語教育はこれからも進めなくてはいけない。

文科省だけでなく、総務省・財務省を含めて推進していくべきだ」という点では一致していましたね。

 

当然です。英語は、グローバル社会で生き抜くための武器。

「国際共通語」だからです。

この認識は国会議員も市井の人も変わりないです。

だから、英語はこれまで以上に「しっかり勉強」しましょう。

 

(2)学力到達度を図るのが「検定」試験である

検定は、「どの程度の実力を持っているか」を計る試験です。

 

しっかりとした「テスト理論」にそって組み立てられていますから、勉強しないと高得点が取れません。

テスト理論にそって、レベルに応じた「級」も「スコア」もあります。

だから「大学入試で検定試験を活用しよう」という発想は、あながち間違っているとは言えません。

 

ただ、大学入試として「多様な民間試験」を一律に活用することに異論が出て、その結果、それぞれの大学に対応が要求されたのでしたね。

 

かなり強引で、「上から目線」だということも納得感を欠いていましたね。

 

私は、昔から英検を知っています。GTECも開発スタートの時点から見てきました。

また、息子たちは入試センター試験を受けましたし、一人は日本の大学を卒業してから、イギリスの大学に進学しました。

また嫁はアメリカの大学を卒業し、イギリスの大学院を卒業していますから、国内・外の検定試験のことは一通り理解しているつもりです。

 

また、実妹の家族が海外に住んでいましたから、EUの統合の機会に、各国の検定試験のレベル合わせのために作成されたCEFLも理解しているつもりです。

 

引用元:英語4技能試験情報サイト

英語の検定試験は、他国でビジネスをしたり、大学で勉強したりするにあたり、それだけの「英語力」を持っているかを測定する試験です。

それぞれ「目的」にそって作られていますから、今回大学入試のために「同一基準で学力を図ろう」としても無理があり、それが破綻したのです。

 

(3)検定の前に教育がある

「教育の成果」を図るのが検定です。

だから、海外仕様の検定で、日本の教育の成果を図ろうというのはそもそも無理があります。

だから、スタートはTOEIC・TOFELのようなものを構想しても、うまくいかないのは当然です。

だから長年、アセスメントを商品として扱う実績があるGTECに流れていったのですね。

 

文科省がGTECと英検の2つに期待したのは当然のことです。

試験の実施にあたっても、ノウハウをしっかり持っているのですから。

 

この「教育」と「検定」を同次元で捉えようとしたのが「混乱」の原因です。

 

私は高校の教員を長くやってきましたから、学習指導が甘かったところは、必ず「定期テスト¬=検定」で成果が出なかったですね。経験的に知っています。

 

今度の場合は「入口」「と「出口」が真逆だという点が問題だったのですね。

 

だから教育現場からの共感が欠けていたのです。

 

実際に、改革を推進する人が「大学入試を変えて、学校教育を変革する」とはっきり言っていましたが、これは「観念的」「実務をしらない者の錯覚」だといえます。

「上からの改革」の限界を露呈したのです。

 

(4)国際規格の試験と国内向けの試験は同列に考えるのは「無理」である

文科大臣は「政府として、受験料を安くするように、業者に要請していた」と話していましたが、国際規格のテストと、国内向けのテストを同列に並べるのは、受験料からして無理があります。

 

「受験料に格差があるのは当たり前」なのです。

世界中で、同一問題を造り、運営も試験結果の評価も先方でやっている試験を、強引に「日本の大学入試にカスタマイズする」「日本の大学入試のために開発・改訂をしなさい」というのですから、「TOEICができない」というは当然です。

 

日本政府の力で「基準価格を変更」すれば、海外の受験者にも影響が出ますからね。

日本の大学に進学する予定がない人まで「高得点を取るために」受験を申し込むという「混乱」が発生するのは必定です。

 

タブロイド端末機で受験

最低の受験料はGTECの受験料は5040円です。

これと最高のIELTSの受験料の25380円、TOFEL・iBTは235USドルを、「比較しないという選択肢はない」ですね。

これを同一基準で比較しようということ自体が無理です。

 

海外テストの事業者は、「どうせ受験者は少ないだろう」とみて静観していたのでしょう。

こうした制度設計上の無理を、専門家の反対の声を聴かず「強引にやってしまおう」というところに問題があったのですね。

 

(5)TOFELもTOEICも、アメリカのETSが作っている。

アメリカやカナダなど英語圏に留学しようとする人は、TOFELやTOEICの検定試験を受けています。

 

どちらも「英語を母国語としない人の英語力」を測るテストです。

この2つの試験問題を作成し、運営し、採点評価を行っているのは、アメリカの非営利団体ETS(Educational Testing Service)です。

教育テスト・評価を実施する組織団体です。

今回も、スタートに当たって、関係者が何度もETSを訪問したと聞いています。

 

Educational Testing Service(ETS)

①TOFEL(Test of English as a Foreign Language = 「外国語としての英語のテスト」、トーフル)は、アメリカやカナダなど「英語圏の大学や大学院に留学するための判定試験」です。

先方の「大学の授業を英語で受けられる」か否かを判定する試験です。出題される内容もアカデミックで難易度が高いです。

 

②TOEIC( Test of English for International Communicationトーイック)は、社会人向けの英語資格です。

ビジネス・実務・仕事に使う英語力のテストを図るものです。

だから専門的な単語が多くテストされます。長時間のテストです。

 

ブースで受験する風景

(5)TOEICが早々に退散したのは当たり前

TOEICは、試験日が年10回・全国約80都市に試験会場があり、受けたいときにスコア受験できます。

10~990点のスコアが出ます。

 

TOEICは国際的な試験ですが、英語4技能の「スタート地点でモデル」になったと思いますが、受験者が多いのは日本と韓国で、欧米ではほとんど知られていないといわれます。

今回は、テストの目的から言って「文科省の要望」に応えることができないと、7月に降りてしまいましたね。

これは妥当な決断だったとおもいます。

 

(6)TOFELの受験には高いハードルがある

TOEFLは、英語を母語としない者を対象としたコミュニケーション能力を検定する試験です。

だから、アメリカに留学しようとする人は「高いスコア」を取るために努力しています。

しかし、TOEFLにしても、最近は多くの課題を抱えているようです。

 

それは、受験生の「替え玉受験」や「携帯で解答を写して転送する」などの行為が続出したためです。

そのために、ETSは「受験するためのID登録」から、「受験会場の身分証明」に至るまで、ものすごく手間がかかるようにしてしまったのです。

受験の申し込みも英語ですね。

日本で個人受験できるのはパソコンで受験する「TOEFL IBT]です。

高いレベルの対策勉強が必要です。

 

これでは、日本の大学入試に使うテストとは、ちょっと異なりますね。

 

(7)IELTSの受験者が増えている。

こうした状況の中で、イギリスのブリティッシュ・カウンシル(イギリスの公的な国際交流機関)が運営しているIELTS(アイエルツ)を受験する留学希望者が増えているようです。

アメリカやカナダに留学しようとする人も、TOEICからIELTSに流れているという話です。

 

私の息子は、イギリスの大学に留学するにあたり、一生懸命にIELTSを勉強し、C1以上が取れたので留学を決断したと記憶しています。

 

ブリストル大学

このテストの申し込みは「日本語でできるし、分かりやすい解説」もついています。

TOEFLを受験するには、英語でなければいけませんが、受験にパスポートが必要です。

普通の高校生はパスポートを持っていないですね。

テストは半日がかりですから「カネも労力も必要」です。

大学入試に使うといっても、留学希望者以外は受験しないでしょう。

今回、こうした問題を「民間試験の利用」ではどのようにクリアーしようとしていたのか。

私は知りませんが「選択肢として見せただけ」だったのでしょうね。

 

(8)そして、これからどうなるか

①以前から、私は「日本でもETSのような組織を作るべきだ」と主張してきましたが、この際、真剣に検討するべきことだと思います。

大学入試センターの外部組織でという形がいいと思いますが、国立教育政策研究所など専門的な知識と資格を持つ人材の組織を民間と協力して作ればいいと思います。

人材バンクを造り、人材派遣・採点業務・作問を担当する組織です。

 

「民間企業は損する仕事をしない」と決めつけた発言が、衆議院文教委員会で目立ちましたが「儲けなし」でする仕事もありますね。

勿論、限度がありますから、EPSのような「NPO法人」が良いと思うのです。

 

独立法人大学入試センター事務局

国立教育政策研究所


ETSの発足と同じように、文科省・経産省・経団連などがイニシアティブをとると良いでしょう。

国家政策の1つですから、これくらいの投資は必要です。

 

②グローバル社会では、スピードよく、大量の英文を読む力、話す力が要求されていますね。

そうした人材をたくさん輩出しないと「日本の将来」が怪しいです。

だから「共通テスト」で、分かりやすい長文から、得点差が出る問題まで5段階ぐらいに分けて「長文読解力の問題」を出題すればいいと思います。

 

③スピーキング力の測定・評価は「問題点が解決されるまで据え置かれる」と思いますが、IT技術の進化とともに「近未来で復活する」と思います。

2024年がメドであるというのも、技術の進歩に期待しているのでしょう。

 

④もう一方で、私は書く力(表現力・構成力)は、各大学の「2次試験」で内容を強化することでよいと考えています。

全国には「ゆとりのない大学」がありますが、大学人のプライドを示す時です。

頑張ってもらいましょう。

 

④英検・GTECの「検定試験」は、これまで通り大学入試とは関係なく実施されると思います。

学力到達度の目安としてしっかり勉強することを勧めます。

また、これから留学する希望の人は、「目標」をもって、実力を強化して欲しいと思います。

まず、英検2級のレベルをつけることが、第一目標ですね。

 

⑤じゃ、何も変わらないのか。私は、かなり前向きに捉えています。

まず、多くの人の関心が集まった分だけ、国際共通語としての英語教育はレベルアップすると信じています。

レベルアップさせなくてはいけません。

 

学校現場の先生たちが「やれやれ嵐が通り過ぎた」と言って「現状に胡坐をかく」ことがないようにしなければ、英語の学力は意識の高揚とともに確実に向上すると思います。

それでなければ、国際社会の中で、日本は孤立するだけですからね。

2024年に向けて、官・民がどこまで協力できるか。ここが最大の問題です。

 

生徒は、目先の変化にとらわれず、堅実に実力を伸ばしていくことに集中して欲しいと念じます。